さまざまな水彩の技法について解説 より複雑な表現も可能に
別記事に掲載した「水彩の基本的な技法」の解説に続き、今回はやや応用的な水彩の技法について解説したいと思います。
技法を知らなくても水彩画は描けますが、活用することでより絵を描きやすくしたり、幅広い表現が可能になります。
簡単にできるものも多いので、ぜひ挑戦してみてください。
表現の幅が広がる!水彩の技法を紹介
基本的な技法については 「透明水彩の基本的な技法について解説 上手く使いこなしてキレイな水彩画を描こう」 で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧いただければと思います。
ドライブラシ
この表現を行うことをドライブラシと呼びます。
乾き気味の筆で色を塗ることで、カサカサとした質感を表現するための技法
やり方は以下のとおり。
1. 筆に絵の具をつける
2. 筆の水分を適度にふき取る
3. その状態で色を塗る
私自身は「木肌」などガサガサっとしたものの質感を表現するときによく利用します。
リフティング
塗った絵の具の色を抜く技法
そんな場合に使える技法です。
やり方は以下のとおり。
1. 絵の具を塗る
2. 色を抜きたい部分のみ、水を塗る
3. 水に浮いてきた色をふき取る
まだ絵の具が乾いていない場合は、ティッシュなどで軽く押さえれば色を拭きとることができます。
使いこなせれば色んな表現ができるはずです。
ただし、使っている紙の性質によってはリフティングがしづらい場合もありますので、注意が必要です。
例えば絵の具の色が染みつきやすい紙の場合、リフティングをしても色をきれいに抜くことができず、 思い通りの表現ができない可能性があります。
一方で塗った後の色が動きやすい紙の場合、リフティングは容易です。(色によっては落ちにくいものもあり)
リフティングを多用する場合は、色が染みつきにくい紙を用いるようにしましょう。
あと、リフティングはやり方によっては紙の表面を毛羽立たせてしまう恐れがあるため、やりすぎに注意しましょう。
スパッタリング
絵の具の粒子を飛び散らせることで、飛沫が飛んでいるような表現を行う技法
作品にモダンな雰囲気をプラスしたい場合や、波の飛沫などを表現したい場合に役立つはずです。
やり方は以下のとおり。
1. 絵の具を含ませた筆を紙の上で持つ
2. 筆を細かくたたいて絵の具を落とす
なお、スパッタリングには上記の筆を使う方法のほか、「網」や「歯ブラシ」を使う方法もあります。
「何を使わなくてはならない」という決まりがあるわけではないため、いろいろな道具を用いて実践してみるとよいでしょう。
なお、スパッタリングで絵の具を飛ばす際、紙の周囲に飛び散る可能性があるため、 予定外の場所が汚れないようにあらかじめカバーしておくことが大切です。
あとスパッタリングでできる模様は偶然によるものが大きく、 どのような模様を出すかをコントロールするのは難しいです。
場合によっては失敗の原因となる可能性もあるため、 まずは失敗してもよい場所で練習を行い、ある程度慣れてから本番で利用することをおすすめします。
スクラッチング
塗った絵の具をひっかいて削り取る技法
やり方は以下のとおり。
1. 絵の具を塗る
2. カッターや筆の柄など、尖ったもので軽く画面をひっかき、絵の具を削り取る
やりやすい道具を使って絵の具を削り取りましょう。
注意点は、絵の具を削るときに紙を傷めやすいこと、 また塗った絵の具にある程度厚みがないと、削ったあとがわかりづらいことがあります。
大事な作品の場合は気を付けてやる必要がありますが、コツをつかめば面白い効果を出すことができますので、 沢山練習しましょう。
マスキング
基本的に透明水彩では「白色」の絵の具は使いません。
もちろんそれは建前であり、場合によっては使うこともあるのですが、 明るい白を表現するときにはできるだけ白色は使わず、「色を塗らない」ことで白を表現します。
紙の白色を生かすというわけです。
ですが絵によっては、塗り残すことが難しい場合もあります。 ものすごく細い線とか、細かい部分を塗り残すのって難しいですよね。
そのような場合に、マスキングを行います。
塗り残しを行う場合に使う技法
マスキングにはさまざまなやり方がありますが、主には以下のような 「マスキングインク」と呼ばれる道具を使用することが多いです。 使い方は以下のとおり。
1. 白く塗り残したい部分にマスキングインクを塗る
2. インクが乾いたら、絵に着色をする
3. 着色後、絵の具が乾いたらインクをはがす
マスキングインクを塗ったところ
マスキングインクをはがしたところ
上記のように、マスキングインクを塗り残したい部分に塗ると、、 上から絵の具を塗っても紙に色がつかなくなるため、楽に白抜きが行えます。
私自身は水彩作品にマスキングを多用することが多いため、マスキングインクは欠かせないアイテムの一つだといえます。
詳しい使い方や注意点については、以下の記事に詳しく掲載していますので、興味をお持ちの方はご覧ください。
水彩画の白抜きを楽にする「マスキングインク」の使用方法について解説
ハードエッジ
絵の具を塗ったとき、塗った輪郭(エッジ)の色がくっきりと出ることってありますよね。
ハードエッジは、その絵の具の輪郭をわざと出すための技法です。
塗った絵の具の輪郭を出す技法
であるのにもかかわらず、なぜわざわざ輪郭を出すのでしょうか?
その理由はさまざまですが、例えばハードエッジで絵にくっきりとした輪郭を持たせれば、 独特の雰囲気を表現することができますよね。
絵の作風によっては、知っていると活用できる場面があるかもしれません。
ハードエッジのやり方は以下のとおり。
1. たっぷりの水で絵の具を溶く
2. エッジ(輪郭)を出したい部分の形にあわせ、溶いた絵の具を置く
3. そのまま放置して乾かす
ハードエッジは、水の中に溶かされた顔料(絵の具の色のもととなるもの)が、 縁の方に流れていくことによって現れます。
顔料が水の中で移動することで現れるものであるため、 たっぷりの水を使うことがキレイなエッジを出すポイント。
絵の具を置いたあとに乾かせば、置いた部分の輪郭にあわせてエッジができているはずです。
あと、吸収性があまり高くない紙を使った方がエッジができやすいです。
吸収性の高い紙だと水分がすぐに吸われてしまうため、顔料が水の中を流れることができず、キレイなエッジができません
なので吸収性の高い紙を利用されることをおすすめします。
私がよく利用する紙の中では、ホワイトワトソンやヴィフアールはエッジができやすいと感じます。 特にヴィフアールはサイジング(吸い込みの調整)がしっかりなされているようで、 水の吸い込みはよくなく、ハードエッジには最適だと思います。
やりやすい紙、そうでない紙がありますので、普段使う紙で試してみてください。
バックラン
バックランとは、水彩の基本的な技法で解説した 「ウェット・イン・ウェット」の応用技法です。
ウェット・イン・ウェットとは、塗った絵の具が乾かないうちに、次の絵の具を塗り重ねる技法のこと。
最初に塗った絵の具の水分が多く残っているうちに、次の絵の具を重ねることで、 複数の色をきれいににじませることができます。
このウェット・イン・ウェットでは、下色がどの程度乾いているのかによって、 上に重ねた色のにじみ具合が変わってくると説明しましたが、 バックランではそのにじみ具合の変化を利用します。
やり方は以下のとおり。
1. 水で溶いた絵の具を塗る
2. 塗った絵の具の「水分が少なくなった状態」のところに、次の絵の具を置く
3. 放置して乾かす
通常のウェット・イン・ウェットでは、2番目以降に置いた色は大きく広がってにじむことがほとんどですが、 下色の水分が少ないと上に置いた色が大きく広がりません。
大きく広がらないだけでなく、花火、あるいはサンゴのような不思議な模様に広がってにじみます。
この模様を出すための技法が、バックランです。
ウェット・イン・ウェットを使い、花火のような模様を出す技法
どのような模様になるのかをコントロールするのは難しいため、 使いどころが難しくはあるのですが、私自身は水彩画の背景に味を出したい場合などに使うことがあります。
ぜひ試してみてください。
塩
塩技法とはその名称とおり、塩を使う技法のこと。
絵の具を塗った後、乾かないうちに塩を散らすと、塗った絵の具の上に結晶のような不思議な模様が残ります。
その模様を出すための技法です。
塩で模様を出す技法
やり方は以下のとおり。
1. 水で溶いた絵の具を塗る
2. 塗った絵の具がぬれているうちに、塩を散らす
3. 放置して乾かす
なおこの塩技法は、下色の水分がどの程度残っているのかによって模様の出方が異なります。
模様をコントロールすることは難しいのですが、 下色の水分が多いと模様が大きく広がりやすく、水分が少ないほど小さい模様ができますので、参考にしてください。
あと下に塗る絵の具の濃度が濃すぎると、塩が上手く溶けないことがあるため、やや水を多めに使うことをおすすめします。
まずは試してみることをおすすめします
ご紹介した技法は、水彩画に変化をつけるのにはとても便利なものですが、 慣れていないと使うのが難しい技法もあります。
また不確定要素が大きく、意図した通りの表現がしづらい技法もありますので、 いきなり本番作品で利用するのは避けたほうが良いでしょう。
まずは何度か試してみて、コツをつかんでから本番で利用されることをおすすめします。
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